紀州備長炭が繋ぐ自然と人の営み。製炭を学び、炭で焼き上げた美食を味わう紀北の旅

紀北町にて、高級白炭「紀州備長炭」を製炭する「大自然本舗えむてぃ」と、その炭を使った料理を堪能できる1日1組限定の美食処「炭火割烹 稲米舎」を訪れ、紀州備長炭や紀北町の自然の魅力を深堀しました。

紀北町「大自然本舗えむてぃ」で製炭を見学

 

紀州備長炭

 

美しい山、清らかな川、すぐそこに海。 豊かな自然に囲まれた三重県紀北町、矢口浦。この地で「紀州備長炭」を生産し続けている「大自然本舗えむてぃ」を訪ねました。

 

紀州の高級白炭「紀州備長炭」

 

紀州備長炭

紀州備長炭は持つとずしりと重く、硬い。叩くと「キーン」と金属のような音が響く

 

紀州備長炭は、紀州地域でウバメガシを原料に作られる高級・高品質な白炭。 ほぼ無煙かつ無臭ながら、大量の赤外線で食材にムラなく火を通してくれるため、鰻屋や焼鳥屋など、炭火調理を行う料理店で根強い人気があります。

 

紀州備長炭の本場は和歌山県ですが、三重県紀北町にある大自然本舗えむてぃは、本場のお墨付きを得て三重県内のウバメガシを原料に製炭を行っています。

 

紀州備長炭

 

大自然本舗えむてぃの親方であり、製炭歴37年のベテラン職人・津村 寿晴さん。

 

「私たちが作る紀州備長炭は、製炭所に来ずとも購入いただけますが、炭を手にする際はぜひ炭づくりの現場も見ていただきたい」と津村さんは話します。

 

紀州備長炭

原木をまっすぐに整える「木づくり」の様子

 

製炭の現場を実際に見て、津村さんのお話を聞いて思うのは「紀州備長炭は、自然との丁寧な対話から紡がれるもの」であるということ。

 

「今日も一日よろしく頼むよ」
津村さんは森に入り、木に向かってひとこと心で念じてから原木の伐採を行うそうです。

 

 津村さん 「ウバメガシは気ままな木。ですが、こちらが丁寧に向き合えば、ちゃんと応えてくれます」

 

ところどころ曲がっていて1本ずつ形が異なる姿は、まさに気まま。 原木を窯に入れる前に、曲がった部分に切り込みを入れて真っすぐに整える「木づくり」という作業を行うそうです。

 

 津村さん 「原木を窯に入れた際、均等に空気が流れるように真っすぐにしないといけないのですが、真っすぐにし過ぎると、それはそれで空気の流れが良くならない」

 

気ままで繊細なんです、と津村さんは話してくださいました。

 

紀州備長炭

 

 津村さん 「原木を窯に入れてから、炭が出来上がるまで2週間ほどかかります」

 

まず、原木を窯に入れてから炭が炭化(※)し始めるまでに、3~4日を要するそう。 窯の温度を300度まで上げるために、薪をどんどんくべていきます。その後は酸素量を調整するために、窯の入り口を一度密閉します。
(※炭化とは、有機物が熱などの作用により炭素に富んだ物質に変化すること)

 

 津村さん 「ウバメガシの成分が炭化し始めると、甘酸っぱい、酢酸のような匂いがしてきます」

 

そうして、7~10日ほど経った炭化の終わり頃には「煙の色が変わってくる」と津村さん。

 

 津村さん 「最初は濁った青色で、最終的にはスカイブルーのような、真っ青な色をした煙になります」

 

密閉していた窯の入り口に少しずつ穴をあけ、酸素量を増やし、窯の温度は最高1300度まで上昇。 高温の窯で熱され真っ赤に輝く炭を7~8時間かけてかき出し、灰をかぶせて数日間冷まして、ようやく紀州備長炭が完成します。

 

紀州備長炭

 

1つの窯だけでも大変な作業ですが、大自然本舗えむてぃでは、合計5つもの窯をローテーションさせながら製炭を行っているそう。

 

 津村さん 「数時間ごとに窯の中の状態がどんどん変化していきます。7名の従業員とともに炭づくりを行っているのですが、従業員がいない時間帯は特にそわそわして、朝早くから窯を見に来ることもしょっちゅうです」

 

原木や窯の状態、その日の気候など、条件や環境が時々刻々と変化するため、「24時間、365日みていないといけない」と津村さん。

 

 津村さん 「大変ではありますが、手をかければかけるほど、良い炭が出来上がります。やりがいのある仕事です」

 

心を配り、手をかけて作られた大自然本舗えむてぃの紀州備長炭は、その品質の高さから、国内のみならず海外からも注文が入り、生産が追い付かないほど、人気を博しています。

 

紀州備長炭

 

森の木々は、間伐を行うことで程よく太陽光が降り注ぎ、成長が促されていきます。

 

しかしながら、津村さんが原木を伐採している里山は、思うように間伐が進んでいない状態が続いているそう。 このままいくと、森林の荒廃や森林資源の枯渇が起きてしまう、と津村さんは危惧しています。

 

 津村さん 「間伐が進んでいないのは、炭焼き職人の減少が大きな要因です。焼き手がいないと自然が死んでしまう。県内外の他の製炭所をみても昔ほど焼き手がおらず、どこも後継者不足の状態。資源があっても、我々がうまく生かせていないという歯がゆさを感じます」

 

「だから、炭焼き職人をどんどん育てていかなければ」と強い眼差しで、津村さんは話してくださいました。

 

紀州備長炭

大自然本舗えむてぃの灰は紀北町で行われている草木染にも用いられている

 

炭づくりには「自然とコラボレーションできる喜び」があると話す津村さん。

 

自然との共生の中で作られてきた炭は、炭焼き料理以外にも、様々な用途で使うことができるそうです。

 

炭の無数の小さな穴が不純物を除去してくれる効果から、水のろ過に用いられたり、野菜のあく抜きにも役立つそう。 そして炭そのものだけでなく、炭を作る過程で生まれる灰も、草木染めや陶芸の釉薬などとして求められているそうです。

 

炭づくりと、間伐による里山の再生。自然のサイクルの中で、人も豊かに生きることを、炭づくりは叶えてくれるのです。

 

 津村さん 「三重県には本当に素晴らしい資源があって、その資源を使って世界一の炭を焼いていることに誇りを持っています。たくさんの方に訪れていただき、紀州備長炭や、炭づくりに興味を持っていただければと思います」

 

大自然本舗えむてぃ

【住所】三重県北牟婁郡 紀北町矢口浦143
【電話番号】0597-39-1550
【アクセス】紀勢自動車道 海山ICより車で11分 / 紀勢自動車道 紀伊長島ICより車で23分 / JR紀勢本線 相賀駅からバス(島勝行)で15分『矢口』で降りて徒歩12分 / JR紀勢本線 尾鷲駅からタクシーで約20分
【駐車場】有

 

「炭火割烹 稲米舎」で紀州備長炭を使った美食を堪能

 

紀州備長炭

 

料理人が惚れ込む、大自然本舗えむてぃの紀州備長炭を使った美食は、同じく紀北町矢口浦に位置する「稲米舎(とうべや)」で堪能できます。

 

紀州備長炭

 

稲米舎は1日1組限定。特別な空間で炭火コース料理を味わいます。

 

 稲米舎店主・上野誠広さん 「炭が本当に好きで。炭と出会わなければ料理屋はしていなかったかもしれません」

 

三重県尾鷲市出身の上野さん。京都府や三重県松阪市での料理人の修行を積み、その後、偶然出会った炭火料理に衝撃を受けて「炭火を使った料理屋を開きたい」と思うようになったそう。炭への興味関心を深めていく中で、炭焼き窯での修行も経験され、「世界一の炭」といわれる紀州備長炭を生産している大自然本舗えむてぃに辿り着いたそうです。

 

上野さんが大自然本舗えむてぃを初めて見学した際、代表の津村さんに「炭を使った料理屋を開きたい」と話したところ、津村さんが「炭窯の近くに稲米舎というお店があって、今ちょうど跡取りを探している」と、稲米舎の先代を紹介されたとのこと。

 

 上野さん 「大自然本舗えむてぃを見学した日から半年後には紀北町に引っ越しをして、そのさらに半年後には稲米舎を守ってきた先代が引退されるということで、私が二代目として、店を継がせていただきました」

 

2019年にお店を引継ぎ、現在は7年目に。その間、上野さんは大自然本舗えむてぃの炭づくりにも参加されてきました。

 

「炭の魅力を多くの方に伝えたい」と上野さん。稲米舎と大自然本舗えむてぃは車で5分程の距離にあるため、予約の上、稲米舎の料理にあわせて炭窯の見学ツアーも実施可能だそうです。

 

紀州備長炭

店主こだわりコース 2人前(1人前につき税込15,000円)

 

店主こだわりコースの献立(12品)

※献立の内容は仕入や季節、お客様のご希望によって変わります

紀州備長炭パウダー水 / 茶碗蒸し あおさ葛あんかけ / 平目昆布〆、ソマ鰹炙り / ミンク鯨 畝須 薄造里 / メヒカリ囲炉裏焼 / 糸もずく 甘夏添え / 鯖寿司 炙り手巻き / 鉄鍋(赤ヤガラ、広芽、白葱、人参、小松菜、自家製かぼすごしょう) / 紀和牛火打、焼野菜(人参、カブ、トマト、とんがりキャベツ)、虎の尾醤油 / 土鍋ご飯、味噌汁、香物 / 雑炊~カブ・人参の葉、あそぼ卵~ / はっさくアイス、ぜんざい

 

「ここ東紀州地域には、こだわりを持って食材を作っている生産者の方がたくさんいます」と上野さん。稲米舎で使う食材は、上野さん自ら地域の生産者のもとへと足を運び、直接、生産者の方から話を聞くなどして仕入れを行っているそうです。

 

 上野さん 「魚は尾鷲のものをメインとし、時折、紀伊長島からも仕入れています。日々、漁港や市場に足を運んでいるので、今回の献立に入っているヤガラ(頭の長い魚)のような、その日その時のタイミングでしか揚がってこない希少な魚も仕入れることができます」

 

 上野さん 「鯨は、美味しく質のよいものを1年間探し続けて、ようやく仕入れることができました。野菜は無農薬で安心して食べていただけて、なおかつ美味しいものを。調味料は各地で探し回って出会ったものや、いろいろと試しながら自家製のものも使用しています」

 

紀州備長炭

 

 上野さん 「紀州備長炭に興味を持っていただくきっかけに、ウェルカムドリンクとして、炭をパウダー状にして溶かしたお水をお出ししています」

 

紀州備長炭の原木であるウバメガシは海岸沿いの山地に生息する樹木。 伊豆半島、三重県、和歌山県にかけて海岸から20キロほどの山地に生息しており、土のミネラル分をたっぷりと吸収しながら成長していきます。

 

 上野さん 「紀州備長炭に含まれるミネラル分は水溶性なので、炭からミネラルが水に溶け出して、体の中に吸収されていきます。ミネラルウォーターのような感覚でお飲みいただければ」

 

紀州備長炭パウダー水はまろやかな味わいで、ほんのり炭の香りも感じられます。炭には体内の不純物を排出してくれる効果もあるそう。炭への興味が増し、これから出てくるお料理がより楽しみになります。

 

紀州備長炭

 

築140年の古民家は、温もりある雰囲気が漂っています。

 

 上野さん 「1日1組限定なので、お子さん連れでも気兼ねなく過ごしていただけます。古民家の居心地がよいのか、お子さんたちは、田舎のおばあちゃんのお家に遊びに来たかのようにのびのびと過ごしてくれます」

 

お部屋の中心にある、風情感じる囲炉裏。囲炉裏にくべられ赤く灯った紀州備長炭には、旬のメヒカリを。こだわって仕入れたという大きなメヒカリは、1時間かけてじんわり、ふっくらと焼き上げられていきます。

 

紀州備長炭

 

料理を提供いただく際、上野さんの心地よい語り口で、炭の様々な魅力を聞くことができるのも、稲米舎ならではの楽しみのひとつです。

 

冗談交じりに「炭について話しだしたら長いですよ」と笑う上野さん。

 

 上野さん 「紀州備長炭は、適当に食材を焼いても美味しく仕上がるのが魅力ですが、焼き方にこだわればこだわるほど、食材をより美味しくしてくれます。大きな可能性を秘めているところに惹かれますね」

 

紀州備長炭

 

鯖寿司は、鯖の皮目を10秒ほど紀州備長炭で温めます。 紀州備長炭の大きな特徴が「強い赤外線を放つこと」だと上野さん。

 

 上野さん 「この強い赤外線で焼くと、食材の中かからも火が入っていくので、中の脂が外に押し出されるような焼き上がりになります」

 

そして、仕上げに巻く海苔も紀州備長炭で炙ります。

 

 上野さん 「ガス火の場合は水蒸気が出ていて、どうしても水気をまとってしまうのですが、紀州備長炭の場合はそれがありません。そのため紀州備長炭で炙ると、よりパリっと仕上がるんです」

 

海苔は想像以上にパリパリと軽やかな食感で驚きます。 肉厚な鯖は中からも火が入り、噛むと脂がじゅわっと出てくるジューシーな味わいに。

 

紀州備長炭

 

お肉は熊野市紀和町の「紀和牛」。やわらかい肉質と適度にサシの入った赤身が特徴で、旨味もしっかりと感じられます。 炭火で焼かれた紀和牛は、尾鷲特産の青唐辛子「虎の尾」を漬け込んだ自家製醤油や、高知県の完全天日塩「田野屋紫蘭(たのやしらん)」の胡椒塩、柚子塩、梅塩と併せて味わいます。

 

野菜は、尾鷲市にある「中川菜園」の人参、カブ、とんがりキャベツと、紀北町の農家「デアルケ」のトマト。デアルケのトマトジュースは2016年の伊勢志摩サミットにて、会食時に首脳陣にも提供されたものです。

 

 上野さん 「中川菜園の人参は、人参嫌いの子どももぱくぱく食べてくれる美味しさ。炭火で焼くことでホクホクとした食感になり、サツマイモのような甘みを感じます。デアルケのトマトはプチっとはじけて、濃厚な味わいが口に広がります」

 

紀州備長炭

 

土鍋で炊くのは、紀伊長島 赤羽産のコシヒカリです。

 

 上野さん 「土鍋の中に紀州備長炭を入れておくと、赤外線の効果でお米の中心からふっくらと炊きあがるんです」

 

紀州備長炭の効果や、様々な使用方法に感動し、「自宅でも試してみたい」と話されるお客さまも多いそう。絶品のコース料理を食べ終わる頃には、すっかり紀州備長炭の虜に。

ちなみに、稲米舎で美食を味わった後、希望者には上野さん自らが案内人となり炭窯の見学もできるんだとか。
(汚れてもよい靴でお越しいただくことをおすすめします)

紀州備長炭や地域の食材の魅力、あらゆることを惜しみなく語ってくださる上野さんのあたたかな思いに触れ、作り出される美味しいお料理の数々を堪能しに、ぜひ稲米舎を訪れてみてください。

 

炭火割烹 稲米舎

【住所】三重県北牟婁郡紀北町矢口浦439−3
【電話番号】0597-39-1280
【アクセス】紀勢自動車道 海山ICより車で10分 / 紀勢自動車道 紀伊長島ICより車で20分 / JR紀勢本線 相賀駅からバス(島勝行)で15分『矢口』で降りて徒歩5分 / JR紀勢本線 尾鷲駅からタクシーで約30分
【駐車場】有
【営業時間】開始時間は12時から19時までのご希望のお時間で承ります
【定休日】不定休
【予約方法】お電話(0597-39-1280)またはInstagram DMよりお願いいたします(お子様ミニコース・未就学児無料ミニコースあり)
【公式Instagram】https://www.instagram.com/toubeya/
【公式HP】https://tsuku2.jp/toubeya

 

紀州備長炭

 

想いを込めて炭を焼き続ける職人と、その炭を愛してやまない料理人。お2人それぞれが真摯に炭を作り、使う姿には、互いへの深い尊敬の念が感じられます。紀州備長炭が紡ぐ素晴らしい関係性が、紀北町にはありました。

 

写真 : 古谷桃子(MSLP by new end. Inc.)
文 : 駒田早紀(MSLP by new end. Inc.)

 

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MSLP by new end. Inc.

映像クリエイター、フォトグラファー、デザイナー、ライターなどが所属する三重県のクリエイターチーム。

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