古来より続いてきた鳥羽・志摩の海女。「明日も海とともに生きたい」

伊勢志摩は、内陸の豊かな緑と、美しいリアス海岸が特徴的な海が広がり、国立公園にも指定される地域。その中で特に鳥羽市や志摩市は、豊富な海の幸に恵まれる漁業がさかんな場所です。鳥羽・志摩の漁業を語る上で欠かせない「海女」。古来より海女文化が続いて来た理由、そしてこの先も海と海女を守るには?

鳥羽・志摩の海女とは

 

海女

 

志摩半島の海は、伊勢湾の海水と黒潮とが混じり合い、豊富な栄養分を受けて数多くの海の恵みが育ちます。
そこを漁場とし活躍するのが、鳥羽・志摩の海女です。
海女とは、素潜りでアワビやサザエ、海藻などをとることを生業とする女性のことをいい、この地域では現在約514人(2022年 海の博物館調査)の海女が活躍しています。

海女の歴史は古く、弥生時代の鳥羽市浦村の白浜遺跡からは、アワビの貝殻やシカのツノを削って道具にしていたものなどが出土していることや、『万葉集』にも海女漁の様子が詠まれた歌があることなどから、海女は古来より今へ継承され続けていることがわかります。

また、伊勢神宮が鎮座して以来ずっと、神宮への御神饌(ごしんせん)として鳥羽市国崎町の海女がとったノシアワビが献上されていることも、その歴史の深さを物語っています。

 

海女



昔ながらの漁スタイル

 

海女の漁は、酸素ボンベなどは使用せず自分の息のみで海に潜り、その約1分ほどの間で獲物を探し、捕獲します。
獲物は、アワビをはじめ、サザエやトコブシ、イセエビ、ウニ、海藻など。

 

海女

 

(海女のとる海産物の一例。伊勢海老は一部の地域の海女のみがとっています)

 

漁に使用する道具や装備を見てみると、いたってシンプルなもので、材質こそ近代化することはあるものの、昔と今でほとんどそのスタイルは変わっていません。
例えば、アワビを石や岩から剥がし取るために使用するカギノミ。一方がカギ状に曲がったノミで、海女の漁には欠かせない道具といえますが、現在使用されているものも、昔の姿をとどめたままです。



「とりすぎない」海女の漁

 

海女の漁が歴史の長いものであることはわかりましたが、どうしてここまで長い間、持続されてきたのでしょうか。
その理由のひとつに、海女には、獲物を取り尽くすことをしないための決まりや工夫があったことが挙げられます。

海女は、たびたび資源枯渇の危機に直面してきた過去があります。
海女の人口の増加や漁期が増大したことなどにより乱獲が起こり、不漁の事態を招いたことなどから、江戸時代頃には、資源の枯渇を防ぐ意識が海女たちにはあったとされています。

 

海女

 

例えば、明治時代の初め頃、ガラス製の水中眼鏡が開発され、水中眼鏡を使用することによりアワビなどがとれすぎる事態が発生し、以降、多くの漁村では10年近く使用を禁止したことがありました。
現在もあえて素潜り漁を続けることも、そうした意識のもと。

他にも、10.6cm以下の小さいアワビはとらないこと、潜水する時間は1時間または1時間30分とすること、集落の海女たちが公平に出漁できるように、安全面などから漁ができる日を定め、それ以外の日は漁に出ないなど、多くの決まりが存在しています。

こうしたことから、海女たちは古来より、ただある資源をとるのではなく、今後も永続的に漁ができるよう知恵を出し工夫してきたことがわかります。

海女たちが漁で使用する道具をはじめ海女に関するさまざまな展示、資料は「鳥羽市立 海の博物館」で見ることができます。

 

海女



現役海女に聞く、海の変化

 

海女

 

そうして現代まで続いている海女の文化。
現役で活躍する海女のひとり、山下さんは、志摩市志摩町にある御座地区に生まれ育ち、海女歴48年というベテラン海女です。

「小学校低学年の頃から、学校から帰ってきたらまず畑へ寄って、トマトやナスなんかの野菜をとって海へ走った。海にその野菜を浮かべて、しばらく泳いでお腹が減ると、それを順番に食べて、そんなことをして過ごしてきた。そうして、同じようにする上級生たちを見ては泳ぎ方を見て身につけてきたよ」
海が大好きだと笑って話す山下さん。
子供の頃から海に親しみ、長年、海女としての経験を積んできた山下さんが、近年の海の環境の変化について話してくれました。

 

海女

 

「黒潮の大蛇行が続いてかれこれ6年、海が磯焼け(海藻が著しく減少、消失することによってアワビやサザエなどの生物が減少すること)して、昔みたいにたくさん生き物がいる海ではなくなった。あたり一面、砂漠のように真っ白」

黒潮の大蛇行は通常、1年から数年で終わることが多いそうですが、これはまれに見る事態だといいます。獲物のいない海ではもちろん、漁の成果はあがりません。

 

海女



海女たちの海を守る活動

 

海藻は、海女の漁場である海に大きな役割をもたらします。
獲物であるアワビやサザエ、トコブシ、ウニなどの餌は海藻です。そのため、海藻が繁茂しない海は餌がないことからそうした生物がいなくなってしまいます。

また、大きな波が来た場合にも、本来であれば生い茂った海藻が勢いを緩和してくれますが、海藻がない海は直にその衝撃を受け危険なことから、漁を休む日も増えたといいます。

「365日海に潜ってきたから、海の違いはこの目ですぐにわかる。冬の海の水温だって、明らかに昔と違って温かいよ」

こうした海の環境の変化により、海女たちは、水温の上昇により発生するガンガゼ(海藻を食べてしまうウニの一種)を駆除したり、海藻の種苗や稚貝を放流したり、全国の海女が情報交換を行う「海女サミット」にて各地の情報を共有するなど、漁に行く以外に、海の環境を守る取組もしています。

「何もしないままではどんどん状況は悪くなるばかりで、誰かができることをしなければ」

 

海女

 

山下さんたち現役海女がいる「海女の庭」では、海女たちがとるアワビやイセエビをはじめとした鳥羽・志摩の海の幸を目の前で焼いて楽しむことができます。

 

海女

 

(海女の庭フルコース 伊勢エビ・アワビのフルコース)

 

「もう引退してのんびりしようかなとも考えていたけど、昨年の海女の水揚げ量を見てびっくり。海の状態がよかった時と比べると、10分の1以下。これではいかんと、海に行けないときも海女が活動できる場が必要だと思った。こうしている間に海の状況がよくなれば、また海女として海に戻りたい。やっぱり海が好きやから」

どうにかしてこの先も後輩たちが海女の漁が続けられる海を守るため、これまでの経験を活かし、力を合わせていきたいと力強く話す山下さん。
大好きな海で海女を続けるため、海女の漁がこの先も永く繁栄していくためという想いが見えました。

海女

 

基本情報

鳥羽市立 海の博物館
【住所】〒517-0025 三重県鳥羽市浦村町大吉1731-68
【電話】0599-32-6006
【HP】http://www.umihaku.com/
【営業時間】
3月1日~11月30日 9:00〜17:00
12月1日~2月末日 9:00~16:30
(最終入館は閉館の30分前まで)
船の収蔵庫見学 16:00まで
【休業日】6月26日~6月30日、12月26日~12月30日
【料金】大人(18歳以上):800円、大学生以下: 400円

海女の庭
【住所】〒517-0705 三重県志摩市志摩町御座40-2
【電話】0599-77-5731
【HP】https://ama-iseshima.com/

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MSLP by new end. Inc.

映像クリエイター、フォトグラファー、デザイナー、ライターなどが所属する三重県のクリエイターチーム。

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